5709 516 交直流電車(近郊形) 付図(その7) SEDブレーキ装置 中央鉄道学園
教科書
SEDブレーキ装置の概要です。
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新性能電車は、101系にSELD電磁直通ブレーキが採用されて以来、205系に電気指令式ブレーキが採用されるまで、SED電磁直通ブレーキを基本として、形式ごとの用途に合わせた派生形が、ブレーキ装置として搭載されました。
SELDとは、S Straight
E Electromagnetic
L variable Load
D Dynamic で、「発電ブレーキ併用応荷重装置付電磁直通ブレーキ」のことです。
近郊形では、応荷重装置を付けないので「SED」となります。なお、711系は「SEL」です。
上図の赤枠内がクハの、青枠内がモハのブレーキ装置です。個々の装置それぞれが、技術者の創意と事故から学んだ改良の結晶なのですが、図面だけから読み取るのは難しいので、概略を検討するのにとどめたいと思います。
電磁直通ブレーキは、編成分離などの事故に対してはフェールセーフではないので、自動ブレーキをバックアップとして備えています。旧形電車に連結するとき、機関車に牽引されるときにも、自動ブレーキを使用することができます。
下図では、電磁直通ブレーキ関係の装置は赤色で、自動ブレーキ関係の装置は青色で、両方に関係する装置は緑色で示しました。
以下の説明は、各装置の機能の一部の概略を記したものです。
クハのブレーキ装置です。
空気管の略称のSAPは直通管、BPはブレーキ管、M Rは元空気ダメ管、CPは制御管です。
図にはありませんが、空気圧縮機で作られた圧力空気は、元空気ダメに蓄積されます。調圧器の働きで、編成中の空気圧縮機は同期して動作します。元空気ダメ圧力が7.0kg/cm2で入り、8.0kg/cm2で切りとなります。
元空気ダメは空気圧縮機がある車両にありますが、M Rを通じて編成各車の供給空気ダメに送られます。この2つの空気ダメは165リットルの大きな空気ダメです。
○電磁直通ブレーキ(複式逆止メ弁まで)
ブレーキ弁ハンドルを回してセルフラップ帯(15°〜80°)に置くと、C Pを通って、B1電磁直通制御器へ空気が送られます。このとき、ブレーキ弁のセルフラップ機構(自動重なり)によって、ハンドル角度に応じた空気圧を発生させて、B1電磁直通制御器へ圧力空気を送るので、ブレーキ力の調整が従来の自動ブレーキ方式の電車に比べて容易になりました。
初期の新性能電車はB55電磁直通制御器を使用していましたが、機器の進歩により、交直流電車ではより構造が簡単なB1電磁直通制御器が使用されています。
B1電磁直通制御器に送られた圧力空気は、ビストンを図では右に押します。すると、218、219線の接点が閉じて、D電磁吸排弁のうち、ユルメ電磁弁は閉じ、ブレーキ電磁弁は開いて、供給空気ダメから、SAPに圧力空気が流れ込み、B1電磁直通制御器のピストンを左に押します。C PとSAPの圧力が釣り合ったところで、D電磁吸排弁のブレーキ電磁弁が閉じ、SAPの圧力上昇は止まります。
ここでブレーキ弁ハンドルを回すと、セルフラップ機構が作り出す空気圧がハンドルの位置に応じて変わるので、そのたびにB1電磁直通制御器のピストンが左右に動いて、218、219線の接点が閉じたり、開いたりして、D電磁吸排弁のユルメ電磁弁、ブレーキ電磁弁が閉じたり、開いたりしてSAPの圧力、すなわちブレーキ力を調整することができます。ブレーキ弁ハンドルをユルメ位置(0°)に置けば、C Pの圧力は0になるので、SAP圧力も0になります。
SAPの圧力空気は、複式逆止メ弁へ送られます。
発電ブレーキについては、モハの項で検討します。
○自動ブレーキ(複式逆止メ弁まで)
ブレーキ弁ハンドルを回して自動ブレーキ帯常用位置(140°)に置くと、BPの圧力空気が排気されます。自動ブレーキがユルメの時のBPの圧力は5kg/cm2ですが、常用位置に置いた時間に比例してBPの圧力は低下します。
ウエスチングハウスが発明した巧妙な制御弁を発展させたA制御弁は自動ブレーキの中心的な機構です。A制御弁はBPの圧力が低下すると、補助空気ダメからブレーキシリンダ(このブレーキ装置ではA制御弁とブレーキシリンダは直結していなくて、作用空気ダメが仮想的なブレーキシリンダの役割を持っている。)へ圧力空気が送られブレーキがかかります。このブレーキ装置では、途中の複式逆止メ弁へ送られます。
ブレーキ弁ハンドルを非常位置(165°)まで回すと、図には書いてありませんが、E電磁吸排弁が動作してBPの非常減圧を行い、A制御弁の作用で付加空気ダメの圧力空気もブレーキシリンダへ送られ、より強力なブレーキがかかります。
ブレーキ弁ハンドルを直通ブレーキ帯に置くと、自動ブレーキとしてはユルメ位置になるため、BPに5kg/cm2まで圧力空気は送られ、A制御弁の作用でブレーキシリンダの空気が抜けブレーキが緩みます。いっぽう、補助空気ダメ、付加空気ダメには圧力空気が送られ、次のブレーキに備えます。
ブレーキ弁ハンドルを重ナリ位置(125°)に置くと、BPは減圧も加圧もされない状態になり、ブレーキ力が保たれます。
○複式逆止メ弁からブレーキシリンダ
複式逆止メ弁は、直通ブレーキ系統からの圧力空気と、自動ブレーキ系統からの圧力空気とを比較して、より高い圧力の方の圧力空気をA中継弁に送ります。
A中継弁は、複式逆止メ弁からの圧力空気と等しい圧力の圧力空気を、供給空気ダメからブレーキシリンダへ送り、また、ブレーキシリンダから排気します。
中継弁の設ける目的を述べたテキストがないのですが、どうもA制御弁周りの空気ダメは容量が小さいので、それらの空気でブレーキシリンダを直接動かすのは得策ではないので、容量が大きい供給空気ダメからの空気でブレーキシリンダを動かそうということのようです。
ブレーキシリンダに送り込まれた圧力空気がピストンを動かし、ブレーキテコや制輪子などの基礎ブレーキ装置を動かして、ブレーキ力を発生させます。
○B3A吐出シ弁
この図には書いてありませんが、いわゆる車掌弁で、紐を引くと、BPを減圧してブレーキを作用させます。
○気圧スイッチ
この図には書いてありませんが、BP圧力が3.0kg/cm2以下になると、電気回路を開くスイッチです。ある程度のブレーキ力が確保できない状態では力行できないようにする保安装置です。
モハのブレーキ装置です。
クハと同じ部分は省略します。
○発電ブレーキ
ブレーキ弁ハンドルを直通ブレーキ帯の25°から90°に置くと、ブレーキ弁の電気部の接触部が接触し発電ブレーキの制御回路を構成します。したがって、通常の運転操作で電磁直通ブレーキを動作させると、M車には発電ブレーキが作用します。しかし、そのままでは、M車には空気ブレーキと発電ブレーキとが作用してしまい、ブレーキ力が過大になります。
○締切電磁弁、D圧力調整弁
発電ブレーキが作用するのは高速域から30km/hくらいまでです。発電ブレーキが有効に作用している時には、M車には空気ブレーキが作用しないようにする機構が、締切電磁弁、D圧力調整弁です。
発電ブレーキが作用している間、締切電磁弁の作用でSAPからの圧力空気はD圧力調整弁を通って複式逆止メ弁に送られます。
D圧力調整弁は発電ブレーキが作用している間は、ブレーキ弁ハンドルが67°までの間は、ブレーキシリンダの0.4kg/cm2の圧力空気を送ります。このブレーキシリンダ圧力では、空気ブレーキ力はほぼ0ですが、発電ブレーキから空気ブレーキへ切り換える時に動作が遅れないようにするためのものです。これを初込メ作用といいます。
オクレ込メ作用は、最大発電ブレーキ力以上のブレーキ力が必要な時に、ブレーキ弁ハンドルを67°から80°に回すと、最大1.6kg/cm2の圧力空気をブレーキシリンダへ送ります。
発電ブレーキのための主制御器のカムが最終段まで進段すると、締切電磁弁の作用でSAPからの圧力空気はD圧力調整弁を通らないで複式逆止メ弁に送られます。
○気圧抵抗器
図にはありませんが、M’車に取り付けられていて、SAPの空気の圧力を可変抵抗器の抵抗値に読み替える装置です。ブレーキ弁ハンドルが30°〜67°の間のSAPの圧力に対応していて、この間で発電ブレーキ力が空気ブレーキ力に見合ったものになるように制御します。
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これくらいの予備知識があると、電車のブレーキ装置のテキストを読む時に、入りやすいと思います。
参考文献
『直流用 新形電車教本』 関東鉄道学園編 交友社
『直流電車』 中央鉄道学園編 交友社
『最新交直流電車』 関西鉄道学園編 交友社
『直流 交直流 新形電車空気ブレーキ装置解説』 伊藤正治 交友社
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